創業相談

創業計画書の強みは「能力」で書く

立地や安さではなく、まねされにくい「できること」を1つに絞る

開店の朝の小さな美容室で、美容師がはさみやくしを並べて準備している様子。入口にお祝いの花

開業した人のおよそ半分が、開業から1年たっても「お客さんが見つからない」と悩んでいます。日本政策金融公庫の2025年度の調査では、開業後1年以内の経営者が今苦労していることの1位は「顧客・販路の開拓」で、48.8%でした。

私は、原因の1つが創業計画書の「強み」の書き方にあると考えています。「駅から近い」「周りより安い」「品ぞろえが豊富」。こうした強みは、近くに同じような店ができれば消えてしまいます。強みは、まねされにくい自分の「能力」で書いてください。

この記事のポイント

  • 開業1年後の悩みの1位は「顧客・販路の開拓」。資金の悩みは減っても、こちらはほとんど減らない
  • 立地・安さ・品ぞろえは強みではなく「売り方」。ほかの店がまねすると消える
  • 強みは「誰に・何を・どの能力で」の3つで書き、最後の「能力」を1つに絞る

開業後の悩みは、資金より「お客さん」のほうが長引く

同じ調査で開業したときの苦労を見ると、1位は「資金繰り、資金調達」(56.9%)、2位が「顧客・販路の開拓」(49.9%)です。ところが今の苦労になると、資金は36.2%まで下がるのに、顧客・販路の開拓は48.8%と、ほとんど減っていません。

開業時と今の苦労の割合の棒グラフ。資金繰り・資金調達は開業時56.9%から今36.2%に下がる。顧客・販路の開拓は開業時49.9%、今48.8%でほとんど変わらない
日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」より。開業後1年以内の企業の回答(三つまでの複数回答)

お金の悩みは、融資を受けたり売上が立ったりすると和らぎます。でも、お客さんの悩みは、自分の事業をどう打ち出すかを変えないと続きます。その打ち出し方を最初に言葉にするのが、創業計画書の「セールスポイント」の欄です。

この記事の内容を、約6分の動画でも解説しています。

立地や安さは強みではなく「売り方」

結論から言うと、強みは「どう売るか」ではなく「何ができるか」で書きます。

事業を言葉にするときは、よく「誰に・何を・どのように」の3つで考えます。このうち「どのように」を、立地・値段・配達・ネット販売といった売り方で答えてしまう人が多いんです。でも売り方は、ほかの店もすぐにまねできます。駅前に同じ値段の店ができたら、その強みは消えてしまいます。

誰に、何を、どのように、の3つの問い。どのようにの答えが2つに分かれ、立地・安さ・品ぞろえの売り方はまねされる、経験・技術・つながりの能力は残る
「どのように」を売り方で答えるか、能力で答えるかで、強みが残るかが分かれる

「どのように」は、ほかが簡単にはまねできない自分の能力で答えます。前の職場で身につけた技術、ほかにない仕入れ先とのつながり、特定のお客さんの困りごとを誰よりも知っていること、などです。

売り方で書いた強みを、能力で書き直す

たとえば、こんな書き直しになります(どちらも説明のための例です)。

  • 美容室:「駅から徒歩2分、カットが周りより1,000円安い」→「髪や頭皮の傷みに悩む40〜60代の女性に、前の店で頭皮ケアの担当を10年続けた経験を生かして、頭皮の状態を見ながら施術できる」
  • 総菜店:「品ぞろえが豊富で、すべて手作り」→「塩分を控えたい近所の高齢者に、病院の調理場で働いた経験から、薄味でもおいしい総菜を作れる」

書き直した方は、どちらも「誰に」がはっきりしていて、「なぜこの人なら選ばれるのか」が経験で裏づけられています。

実在の会社でも、同じ考え方が見られます。大分県の金属加工の会社、東洋メカテックは、創業した当初から多品種・小ロットの加工に的を絞りました。幅広い加工の工程をそろえ、複数の工程をこなせる人を育てて、「金属加工の特急(超短納期)対応」を看板にしています。「短納期」と書くだけなら売り方ですが、それを支える工程と人をそろえたことで、まねされにくい能力になり、複数の大手メーカーとの取引につながりました。

強みを絞ると、やらないことが決まる

強みの欄に、あれもこれも並べたくなる気持ちは分かります。でも「全部が強み」は、何も決めていないのと同じです。

能力を1つに絞ると、やらないことも決まります。「頭皮のケアで選ばれる美容室」なら、安さを競う割引はやらない、という具合です。限られたお金と時間を、強みを磨くことに回せるってことですね。

融資の面談でも、強みが能力で書いてあると話が具体的になります。担当者が知りたいのは、「なぜこの人なら売れるのか」だからです。

よくある質問(Q&A)

Q:前の会社と同じ仕事で独立します。強みは「経験10年」と書けばいいですか?
A:年数だけでは足りません。その10年で何ができるようになったかを、お客さんにとっての良さとつなげて書いてください。「10年で段取りを覚え、同業より早く仕上げられる」のような形です。

Q:強みが1つも思いつきません。
A:前の職場で人から頼られたこと、ほめられたことを書き出してみてください。自分では当たり前でも、まわりから見ると能力であることが多いです。

Q:強みを1つに絞ると、お客さんが減りませんか?
A:最初は減ったように見えても、選ばれる理由がはっきりするので、紹介や口コミが起きやすくなります。強みに合わないお客さんまで追わないほうが、限られたお金と時間を生かせます。

おわりに

強みの欄は、融資のためだけに埋める欄ではありません。開業してから、誰にどう売るかを決めるときのよりどころになります。書いた強みが「売り方」になっていないか、一緒に確かめます。お気軽にご相談ください。

出典

  • 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月、調査時点2025年8月、開業後1年以内の企業)
  • 日本政策金融公庫 国民生活事業「創業計画書」記入例
  • ミラサポplus 事例ナビ「株式会社東洋メカテック」(中小企業庁、2018年「はばたく中小企業・小規模事業者300社」)